大阪・能勢で畑に向き合う「エントランスファーム」志田一真さんは、元小学校教員であり、元プロボクサー。
40代からの“ゼロからの挑戦”として農の道へと進みました。
昼夜の寒暖差が大きい能勢の気候を生かし、農薬や化学肥料にできるだけ頼らず、自然に寄り添った野菜づくりを続けています。
「エントランス=入口」という名前には、野菜との出会い、人とのつながり、そして新しい挑戦の入口になりたいという想いが込められています。
畑で育つ野菜も、そこから生まれるピクルスも、すべては人と人を結ぶきっかけに。
志田さんの畑から、その真っすぐな想いをインタビュー形式でお届けします。
40代からの新しいチャレンジ
なぜ先生やプロボクサーから農業の道へ進まれたのですか?
元々チャレンジ精神は旺盛なので、40歳を超えたのを機に、何か1からチャレンジをしたいと思ったからです。
「農業が本業」と思うようになったきっかけは?
能勢町で教員として勤めていた時、「こんなところで農業できたらいいなぁ~」というのがきっかけです。
農業を続ける上で一番大切にしている考え方はありますか?
百聞は一見に如かずなので、常識破りのことでもまずはやってみることを大切にしています。
能勢のこと、農業のこと
能勢という土地を選んだ理由や、この土地の魅力を教えてください。
教員時代に知り合った農家の方が多くいたことや、高齢化が進み土地を貸したい人が多くいて、参入しやすかったためです。
能勢は山間部なので周辺市よりも気温が少し低く、昼夜の寒暖差も大きいため、それらを生かした野菜を作れることが魅力的でした。
2025年の猛暑下でも被害がまだ少なかったり、冬場では積雪による甘味の増加などがあります。
現在は主に減農薬・減化学肥料と無農薬・無化学肥料栽培(これらは大阪エコ農産物申請済)を行われているとのことですが、その中で大変なことは何ですか?
大変なことについては、一番は虫です。多くの野菜は虫たちにとっても栄養価が高く、たくさん集まってきます。いざ出荷!と意気込んで収穫に臨むと、食害で穴があいていたり、傷だらけだったり…虫が出てくることももちろんあります。それらを見つけて手で取って、出荷できるものは出荷をしますが、とてつもなく手間がかかります。
逆に嬉しいことについてもお聞かせてください。
嬉しいことはありきたりですが、「おいしい」といってもらえたときです。本当にうれしいですし、安心します。また、厳しいお言葉をもらえたときも、自分の野菜に向き合ってくれたという意味で嬉しいです。こういった声をいただくことで「品種を変えてみようか」「設備を整えていこうか」と考えるきっかけが生まれています。
どんな野菜を特に大切に育てていますか?
現在はお客様の需要があり、長く提供できるような野菜を育てることに注力しています。
苦手から生まれた人気商品
「野菜ピクルス」
ピクルスを作り始めたきっかけはありますか?
就農前に本を読んでいて、香川県の「コスモファーム」という農家さんが、すごくおしゃれなピクルスを作っていることを知り、「こんなきれいな作品が野菜で作れるのは素敵だな」と思ったのがきっかけです。
レシピ開発で大事にしていることや、工夫していることを聞かせてください。
それぞれの野菜が持つ独特の風味を、どう生かすかを一番大事にしています。
漬けた直後は苦みが強いけど、1週間経てば甘味が出てくる野菜など、使う野菜ごとにピクルスの味の変化があります。
できたては美味しいのに、1週間後にポン酢みたいな味になったピクルスは没にしました(笑)
いろんな野菜で試作・検証しながら、4種のピクルス液を合わせて、現在の商品があります。
お客様へは可能な限り、「このピクルスはこの時期にこんな風味で美味しいんですよ」とオススメするようにしています。
「ピクルスが苦手だった自分でも食べられる」レシピができたエピソードを詳しく聞きたいです。
日本でいうピクルスの定義は「酢漬け」という広義だと知ったのがきっかけです。そこから、ピクルスのレシピを本や動画、知人、複数の講師から学び、「これだ!」というものに辿り着きました。
特に和風味のピクルス液は旨味も強く、これでキュウリを漬けてみたところ、とても美味しかったのです。私はハンバーガーのピクルスはお願いして取ってもらうのですが(笑)
同じピクルスでも、これならみなさんに自信を持ってオススメできるというものができあがりました。
エントランスファームさんのピクルスは種類がたくさんありますが、中でも一番人気の味はどれですか?
一番人気は「さつまいもと柚子のサワーバニラピクルス」です。箕面市特産の実生柚子がとても風味豊かで、スイーツやワインのお供として人気です。
ご自身のお気に入りの味はどれですか?
お気に入りは「タマネギの青じそ梅かつお」です。タマネギのピクルスだけ、なかなか美味しいものができず悩んでいたところ、ある日、レシピが夢に出てきたのです(笑)次の日、実際に作ってみたらおいしい!!まさに「夢のピクルス」です。
今後挑戦したい味や、展開はありますか?
2025年から季節のフルーツを使ったピクルスを販売しています。1つの季節に、1つのおすすめフルーツピクルスを提供できるようにしたいです。
また、ビンのピクルスをたくさん買っていただいたお客様から「ビン、どうしたらいいかな…捨てるのもったいなくて」というお声をよくいただきます。ビンの再利用を考えたり、ビン以外の容器での提供なども考えています。
エントランスファームの想い
農業や加工品を通じて、お客様に一番伝えたいことは何ですか?
生産者とのつながりでしょうか。
「エントランスファーム」という名前には、どんな意味や想いが込められているんでしょうか?
いろいろな野菜との出会いや、出会い方の「入り口」になりたいという想いと、40歳を過ぎた自分の新しい挑戦としての「入り口」という意味があります。
今後の夢や目標はありますか?
経験を通じて野菜の全般(栽培方法、保存や栄養、美味しく食べる方法、オススメの加工方法)に詳しくなり、後進を育成したいと思っています。60歳からスタートします。
インタビューを終えて
志田さんの歩んできた道には、挑戦と誠実さ、そして人や自然との深いつながりがありました。
畑で育まれた野菜も、そこから生まれるピクルスも、そのひとつひとつが出会いの“入口”となり、私たちの暮らしを豊かにしてくれます。
志田さんの畑で育った野菜と、そこから生まれる色とりどりのピクルスは、どれも素材の力と真っ直ぐな想いが詰まった特別な味わいです。
食卓にひと瓶添えるだけで、毎日のごはんがぐっと楽しく、豊かになります。
これからのエントランスファームの挑戦にも、ぜひご期待ください。
そして、一度その“入口の味”を手に取って、心と体で感じていただければ幸いです。